♂♀[村長-ムラオサ-]
ヒノミナ村の村長。海ノ巫女クイナは孫
♂♀[湊-ミナト-]
ヒノミナ島を守る水神(ミズガミ)様。紅蓮と共に守ってきたが今は一人で守っている。
♂[紅蓮-グレン-]
海ノ巫女クイナの前に突如現れた記憶喪失の青年。火の術を使える。火の神・紅蓮の生まれ変わり
♀[水鶏-クイナ-]
ヒノミナ村の海ノ巫女。日々修行を積み重ね、間もなく1年になる
♂[凪助-ナギスケ-]
海ノ巫女の付き人、兄のような存在。村で一番強い刀使い
♂[鬼-オニ-]
大鬼(おおおに)ホウソウ。ヒノミナ島の実りを狙っている。
or
村長/湊:
紅蓮:
水鶏:
凪助:
鬼:
-----------------------------------------------------------
村長「その昔、このヒノミナ島(じま)には土地神様が二柱(フタハシラ)いたそうな。一柱(ヒトハシラ)は火を司る神、またもう一柱は水を司る神。土地神様はこの島の豊かな実りを狙う鬼を退けんとする為、力を合わせて戦ったそうな。」
鬼「ぬぅ…」
湊「現れたな…」
紅蓮「今宵も性懲りもなく。」
鬼「ははは。此度(こたび)こそ、島の実りを貰い受けるぞぉ!」
湊「無駄な足掻きを。」
紅蓮「何度来ようと無駄だ。ヒノミナ島の力は我が兄弟の力。」
湊「明け渡すわけにはゆかぬ!」
鬼「うぉおおおおおおお!」
村長「幾度と、鬼は戦いを挑んだ。じゃが、その全てを土地神様は退けてみせた。そうして、ヒノミナ島は何百年と守られてきた。じゃが…」
鬼「へへへ…」
湊「今宵も討ち果たされに来たか。」
紅蓮「愚か者め。ならば返り討ちにしてやるまでさ!」
鬼「今宵の我は一味違うぞ。力を蓄え強くなった。今のワシにかなうものなどおらぬわ!」
(うめき声)※演者の皆様でどうぞ
鬼の身体に見える無数の鬼の形相
紅蓮「なっ!なんだあれは!」
湊「同胞(はらから)を取り込み、力と成したか。あわれな。」
紅蓮「ハッ!我ら兄弟の力にかなう者無し。いくら力を蓄えようとも全て退けてみせるわ!」
(鈍い音)
紅蓮「ん…?」
鬼が伸ばした腕に捕まる湊
湊「あっ兄者ぁぁぁぁ!!」
紅蓮「湊ぉ!!」
鬼「まずは一つ。二ついっぺんではかなわずとも、一つずつ相手どれば、討ち果たすのも容易(たやす)き事よぉ!!」
湊「ぐぁぁぁああ!」
紅蓮「やめろぉお!おのれ!!すぐさま消し去ってくれる!」
鬼「ぬぅうう!!」
村長「力を蓄えた鬼の名はホウソウ。一柱の神を退け、ホムラの神が対峙するも、力及ばず島は厄災に見舞われる。それが今から丁度(ちょうど)100年前じゃ。」
鬼「はははは!ヒノミナは我の物!この島は我の物じゃあ!」
紅蓮「き…さま!」
鬼「どうじゃ!これまで退けてきた我に敗れたのだ!悔しかろう!おごりが過ぎたのう!!」
紅蓮「うっうぅ…」
鬼「どれ…憎きカミサマにとどめを…」
湊「まだ終わりではない!!」
鬼「なに!?」
湊「渦潮(うずしお)よ、我にまとえ!」
鬼「ぐぉお!!」
鬼の拘束から解き放たれる湊
湊「ここまでやってくれた事は素直に認めよう。確かに我らはおごりが過ぎたのやもしれぬ。だが!」
鬼「間抜けよ。片割れが消えた今、貴様ごときが我にかなうわけがあるまい!」
湊「ヒノミナの力は我らが守る!それは命を賭(と)してでもやり遂げねばならぬ我らが役目だ!!」
鬼「馬鹿な…力の一端(いったん)を削いだにも関わらず、まだ戦えると申すか…いいじゃろう。我の力をもって、塵一つ残さず滅ぼしてくれるわ!」
湊「行くぞ!」
鬼「おうよ!!」
紅蓮「み、みな…と…。」
村長「火の神は消えた。じゃが、水神(ミズガミ)様の決死の術の前に大鬼ホウソウも封印された。こうして、ヒノミナの地にまた豊かな実りが戻っていった。火の神がおらぬ今、傷ついた水神様を癒せるのは、純潔の力を持ち修行を重ねた海ノ巫女(アマノミコ)殿だけなのじゃ…」
クイナ「オッ様?その話を聞くのは、もうこれで352回じゃ。」
村長「こりゃ!話をしっかりと聞かんか!巫女殿にはしっかりと修行を積んでもらわねばヒノミナ村は…」
水鶏「わかっておるわかっておる!元より巫女になる前から覚悟はできておるのじゃ。何度も何度も言われると耳がタコになりそうじゃ。タコミミの巫女など水神(ミズガミ)様に笑われてしまうわ!」
村長「クイナ…。わしはムラオサとしておぬしを立派な巫女にせねばならぬのじゃ。しっかりと巫女の教えを伝えねば…」
水鶏「あぁーー!もうやーめた!今日の修行やめたー!あーあ、今から修行しようと思うておったのに、オッ様うるさいからやーめた!」
村長「クイナ!」
水鶏「そうじゃ!山菜取りにでも行ってこようかの!うむ!それがよい!体を動かすのも立派な修行じゃ!」
村長「はえ?」
水鶏「オッ様!それでは、留守を頼む!」
屋敷から出ていくカグヤ
村長「あ!巫女殿!巫女…クイナァア!!はぁ…わからん孫じゃ…。」
凪助「付いてゆけばよろしいですかな?」
村長「うむ。そうしておくれ、ナギスケ」
――村の社――
水鶏「よいしょ!うんしょ!ふぅ…よし!ここまで来りゃ、オッ様も来れまいて!わっはっは!」
凪助「その代わりにわしが来るがな…」
水鶏「わぁっ!?…ナギスケか。もう、オッ様め。少しは年頃の乙女に時間をやれというに!!」
凪助「フッ、クイナ。まだ今日の修行は済んでおらんのじゃろう?ちょうど社(やしろ)の近くだ。少しだけやっていけ。そうしたら、いくらでも遊ぶがよい」
水鶏「本当か!」
凪助「お…うむ。オッ様にはわしから言うておく。」
水鶏「ナギスケ大好き!!やっぱりナギスケはわかっておる!!」
凪助「よしよし」
水鶏「では!すぐ済ませてくるからの!待っておれ!」
凪助「うむ」
社の中に駆け込んでいくカグヤ
凪助「全く…世話の焼ける巫女殿じゃ。」
水鶏「うわああああああああああああああああ」
凪助「なんだ!!」
社から慌てて駆け出して半べそになりながらナギスケに救いを求めるクイナ
水鶏「お、お、お、鬼!鬼じゃ…鬼がぁ…」
凪助「鬼!?クッ…!」
社から出てくる人影
グレ「ったく。うるせぇな。耳元で騒いだら頭が割れるだろうが。」
水鶏「出たぁぁぁ!」
凪助「んっ!?人!?じゃが、見慣れぬ顔…。そこもと!何者じゃ!名乗れ」
グレ「あ?誰でぃお前ら。」
凪助「名乗れと申しておろう。でなければ、不届き者として、我が刀のサビとしてくれるぞ!」
グレ「ほう…刀?あぁ、その腰に差してる長物(ナガモノ)かぁ?ヘッ、楽しいじゃねぇか。受けて立とう!」
凪助「貴様、馬鹿か?丸越で刀を相手にするなどタワケでもせぬぞ」
グレ「ウダウダうるせぇ、来ねぇならこっちから行く!!」
爆速でナギスケに迫るグレン
凪助「ぬぅ!」
剣戟の音
凪助「なんだこやつ!刀を素手で防ぎおった!!そのような事、常人の技では…」
グレ「ちぇああ!!」
凪助「ぐわぁっ!」
グレンの拳に火がまといナギスケにぶつかる
すんでの所で刀で受け止めたナギスケ
グレ「ほぉ?今の一撃を受け止めるか。やるな、お前。」
凪助「ハァハァ…。なんじゃ!今の技は!何かの術か!」
グレ「あ?これ?んん……これはあれだ!火のこぶし!いや、火の…火のつぶて?んん…」
間
グレ「まぁ、とにかく燃える強ぇ拳だ!」
水鶏「ノータリンか?こやつ…」
グレ「だぁ?そこの小娘!!今、なんつった!ノータリンつったか!ノータリンってどういう意味だ!絶対馬鹿にしてる言葉だろう!意味を教えろ!おい!!」
水鶏「むぅ…」
凪助「…ぷっ!はっはっはっは」
水鶏「…ナギスケ?」
凪助「やめじゃやめじゃ。」
グレ「あ?」
凪助「やめと言うておるのだ。見た所、悪者にも思えぬ。」
グレ「なんだぁそりゃ。俺は熱い勝負がしたくて…」
凪助「今はよしておくれ。巫女殿の修行の時間じゃ。」
グレ「修行?」
凪助「のう、聞きそびれておったが、おぬし名は何という。」
グレ「あ?あぁ…グレンだ。」
凪助「グレン殿…見慣れぬ顔じゃが、おぬし何処(いずこ)より参られた。カラノ国からか。」
グレ「…カラ?」
凪助「ん?違うのか。では、島の者か?」
グレ「んにゃ?いやぁ、どこからって言われてもなぁ。」
凪助「ん?」
グレ「気付いたらこの小屋におった!」
凪助「気づい…」
水鶏「気づいたらとはなんじゃ!その社(やしろ)は神聖な社ぞ!勝手に入るとは、この罰当たり者め!」
グレ「いやぁ、んなこと言われたってよぉ…。本当に気づいたらこの小屋にいたもんだから…」
凪助「なんとも面妖(めんよう)な話だな。それに先ほどの火の術…」
水鶏「みょうちくりんな阿呆じゃ」
グレ「おぉぉ!!アホだと!?その言葉は知っとるぞ!!馬鹿と同じ意味の言葉だろう!」
水鶏「むぅ…」
凪助「はっはっはっは。なんだかよくは分らぬが。のうグレン。おぬしさえ良ければ、わしらの村に来ぬか。心根(こころね)がよい奴なら皆、大歓迎じゃ。」
グレ「あ?別にお前らの村なんかに用は…」
(腹の鳴る音)
凪助「はっはっはっは!よいよい!飯も食わしてやろう。積もる話もあるし!のうクイナ。」
水鶏「へ??わしは別に…。」
グレ「まぁ、飯くれるってんだったら…」
凪助「では、少し待っておれ。先にクイナの修行を済ませてから…」
水鶏「あぁ、終わったぞ。」
凪助「ん?」
水鶏「今日の祈りの儀(ギ)ならもう終わった。」
凪助「終わった?はぁ…。クイナ、おぬし社に入ってすぐに飛び出てきたであろう!その間にお祈りなど…」
水鶏「わっはっは!我は優秀な巫女だからな!祈りの儀など風の如しじゃ」
凪助「クイナ。嘘はだめだ。」
水鶏「嘘ではない!本当じゃ!」
凪助「ほぉ…?ならやってみせよ。」
グレ「おい!腹が減ったんだが…その修行?とやら、終わっとるんなら、早く連れてってくれ。」
凪助「グレン殿しばし待たれよ。これは村の大事なしきたりであるがゆえ…」
水鶏「(早口)水面(みなも)の底におわします。水神様にかしこみかしこみもうす。我、海ノ巫女(あまのみこ)なり。ソワカ・ソワカ・エイ・ソワカ。オン・サンマ・エイ・ソワカ。我にヒノミナの実りを宿らせたもう。」
クイナのまわりが輝き、水のようなものがふわっと包み込み消える。
水鶏「ね!」
凪助「ううむ…」
グレ「な、なんだそれ!!」
水鶏「え?」
グレ「たまげたぁぁ!!なんだ今のは!こう水みたいのがブワブワっと出てきて…え、それでお前のまわりをこうババババーってなってふわふわ~ってなって!」
水鶏「す、すごいじゃろぉ」
グレ「おぉ!すごいすごい!もっかい見しとくれ!」
水鶏「あーだめだめ!これはものすごく体にくるのじゃ。」
グレ「なんだよぉ!ケチンボ!ちぃとくらい見してくれたっていいじゃねぇか!」
水鶏「やーだ!近寄るでない!」
凪助「はっはっは。まぁ信じてやるか。よし、グレン殿ついてまいられよ。」
社を後にする三人
水鶏「お前…面白い奴。」
グレ「ん?」
水鶏「なんでもないわ!猿!」
グレ「あ?だぁれが猿だ!小娘!」
水鶏「ふふふっ」
グレ「んん??」
凪助「時に!グレン殿」
グレ「あぁ、グレンでいいよ。堅苦しいのは苦手なんだ。」
凪助「そうか、ではグレン!後でもう一試合せぬか。」
グレ「あぁ?なんでぇ。」
凪助「いやな。これでもわしはヒノミナ村一番の兵(つわもの)と呼ばれててのう。そのわしと渡り合う奴など十数年ぶりなのだ。久々に滾(たぎ)ってのう!」
グレ「渡り合うだぁ?俺はおめぇさんより強ぇ!」
凪助「はっはっは!ますます燃えるわい!」
水鶏「男(おのこ)は馬鹿ばっかじゃな…。」
――ヒノミナ村――
到着した一行
凪助「グレン、着いたぞ。ここがヒノミナ村じゃ!」
グレ「へぇ、なんだかいい村じゃないか。」
凪助「腹が減っておろう!今すぐ用意させる。おーい!」
間
凪助「ん?おーい!誰ぞ、おらんか!」
グレ「誰もいないじゃないか。」
凪助「妙だな…」
水鶏「むっ!ナギスケ、オッ様じゃ!」
走ってくる村長
村長「ハァ…ハァ…ナギスケ!…クイナ!」
凪助「オッ様、どうされました。その様に血相を変えて」
村長「ハァ…うむ。それがな…。ん?誰じゃこの者は…」
グレ「あ…」
凪助「この者は先ほど社で…」
村長「まぁ今はそんな事はどうでもよい!はよこっちに来るのじゃ!」
凪助「は、はぁ…」
険しい表情をしているクイナ
グレ「ん?どうした?」
水鶏「行くぞ。」
グレ「あ、おい!…なんだってんだい。どいつもこいつも。俺は飯を食いに来ただけだってのに…」
――村外れの浜辺――
走ってくる一行
凪助「何事だ!そこをどけ。みせてみ…!?」
グレ「おい、ちょっとどいてくれ。俺にも…うわっ、こりゃひでぇ。」
水鶏「カンタ…。サエモン…。」
村長「今朝、漁に出たまま帰って来ぬと思うたら…」
漁師二人の水死体があがっている
凪助「これは一体…。クジラにでも襲われたのか!」
村長「カンタとサエモンは村屈指の漁師じゃ。仮に襲われたとて、そのような事では死なぬ。」
凪助「では、何が…」
村長「ホウソウの呪いじゃ」
凪助「なに!?」
水鶏「そんな…」
グレ「ホウソウ…?」
村長「ここを見てみよ。腫物(はれもの)ができておろう。どこか顔のようにも見える。これが無数にあるのじゃ。間違いない。」
凪助「これで5人だぞ。…鬼の復活が近いというのか。」
水鶏「鬼…」
村長「じゃがまずは、弔いじゃ。皆の者!今宵は宴じゃ!盛大にカンタとサエモンを弔うてやろう!」
グレM「鬼…ホウソウ……なんだ。どこかで…」
グレ「…グッ!」
水鶏「どうしたのじゃグレン」
グレ「いや、なんでもねぇ。気にするな。」
凪助「村に来て早々。このような物を見てはな…」
グレ「あ、あぁ。」
凪助「まぁ、これから宴じゃ。準備でちとかかるが、たんまりと飯にありつける!楽しみにいたせ。そうじゃ、村の皆にも紹介せねばな!ついてまいれ!」
グレ「おう…。」
グレM「なんだ、今の感覚。懐かしいような。いや、違う。もっとこう、フツフツと沸き上がる何かだ。これは…」
水鶏「ほれ!猿!ボーッとせんと、ナギスケに付いて行け。」
グレ「ん?お、おう…。あれ?お前はいかないのか。」
水鶏「わしにはやらねばならぬことがある。」
グレ「ん?」
水鶏「これも巫女の仕事。こやつらの迷いし魂の解放じゃ…」
水鶏「ソワカ・ソワカ・エイ・ソワカ・オン・サンマ・エイ・ソワカ」
水死体を水の羽衣が包み込み無数の光が空へと消える。
見とれるグレン
グレ「…ほわぁ。」
水鶏「二人とも良い奴じゃった。」
グレ「え?」
水鶏「幼き頃から、よくこっそりと漁に連れて行ってくれての、それでオッ様に怒られた時も、代わりにオッ様に叩かれたりとな。馬鹿な二人組なのじゃ。美味い魚もよくくれた。」
グレ「お前…」
水鶏「嫌な仕事じゃと思うか?」
グレ「え?」
水鶏「じゃがの、巫女になると決めたのはわし自身じゃ。」
水鶏「これがわしの出来うる限りの恩返しなんじゃ。村への、そして…」
グレ「強ぇな。」
水鶏「ん?」
グレ「お前は、強いよ。それに偉い!その年で村の為にあれこれ考えられるのは、そうそうに真似出来る事じゃあ無ぇ。」
水鶏「何を偉そうに。年の頃など、そう変わらぬじゃろう。」
グレ「あ?んん。おぉ。」
水鶏「クイナ」
グレ「ん?」
水鶏「クイナじゃ。お前お前と、ムカッ腹が立つわ。猿の癖に。」
遠くから呼びかけるナギスケ
凪助「おーい!飯の支度が出来たみたいだぁ!」
水鶏「それゆくぞ。村を案内(あない)してやろう。」
グレ「あぁ…」
水鶏「ふふっ。ほれ!置いて行くぞ!わしに負けたら飯はやらん」
グレ「はぁ!?ちょ、ちょっと待てぇ!!」
――夜――
グレ「かぁ~、食ったぁ!」
凪助「はっはっは。グレン。おぬし中々の大食らいじゃのう!村のたくわえがなくなるかと思うたわ!」
グレ「ここんところ、食ってなかったからなぁ!いやぁ満足満足!お!そうだ!試合やるんだろ!今から…」
凪助「すまんのグレン。今はちぃと気分が乗らぬ。明日にしてくれ。」
グレ「…ぁ。まぁ、そうだよな。すまねぇ。」
凪助「クイナの仕事、見たそうだな。」
グレ「あ?あぁ…。」
凪助「どう思った。」
グレ「え?どうって、いやどうもこうも、初めて見るし。」
凪助「まぁ、そうよな。」
グレ「でも、なんだか大変だなって。」
凪助「大変?」
グレ「おう。だってまだ小娘だぞ。なのに村の為に頑張ろうとしてて。強いと思ったな。」
凪助「そうか。だが強いと言えば、おぬしこそ…」
グレ「いや、まぁ、うん。俺も強い。確かに強いが。それとはちげぇんだ。なんつったらいいんだろうな。心?が、強い!うん。」
凪助「ははは。そうだな。クイナは強い。」
グレ「うん」
凪助「だが、正直言って。強がりにも見えるのだ。」
グレ「強がり?」
凪助「クイナにはな。姉君がおったのだ。」
グレ「あね…ぎみ?」
凪助「うむ。わしの幼馴染であり、村一番の巫女だった女子(オナゴ)だ」
グレ「だった。ってどういう…」
凪助「5年前、ヒノミナの儀礼で水神(ミズガミ)様の怒りをかってな。命を落とした。」
グレ「ヒノミナの儀礼??」
凪助「巫女の最大にして最後の大仕事。水神様を癒す儀礼だ。」
グレ「最後の…」
凪助「それが終われば、巫女から解放されたというに…」
グレ「なんで…怒りをかったんだ?」
凪助「わからぬ。だが、クイナの奴。わんわん泣きじゃくっての。丸一日、亡骸(ナキガラ)の前で大泣きだった。」
グレ「そりゃ、そうだよな。」
凪助「クイナはその日以来、涙を見せることも無くなった。」
グレM「あっ…。そういや、泣いてなかったな。」
凪助「明るくは振る舞っておるが、クイナはあれでかなり責任を感じておるのだ。村の皆に、それに水神様の怒りをかってしまったヒバリにな。」
グレ「それが、あいつの姉ちゃんの名前か。」
凪助「そうだ。」
グレ「そっか…。でも、ヒノミナの儀礼って奴が終われば解放されるんだろ?」
凪助「うむ…」
グレ「そうすりゃ、巫女なんて仕事にしばられる事もなくなるって訳だ!いつなんだよ!クイナの儀礼は!」
凪助「来週だ。」
グレ「え…」
凪助「正確には5日後だ。」
グレ「ま、まぁ!ようはあれだ!怒りをかわなきゃいいんだろ?そうしたら、万事とどこおりなく!水神様も癒され!巫女からも解放される!万々歳でねぇか!」
険しい顔をするナギスケ
グレ「ん?そういやさ。なんで水神様を癒さなきゃなんねぇんだ?どっかケガでもしてるのか?」
凪助「ケガ…?ふふふ。面白いことを言う。相手は神だぞ。グレン、先ほどの亡骸を見たか。」
グレ「あぁ、ホウソウの呪いだっけ」
凪助「古い言い伝えなのだがな?この地には元々、二柱(フタハシラ)の土地神様がおった。だが、ホウソウなる鬼が襲い、水神様は深手を負い、片割れの土地神様は滅んだという。なんとか、鬼を封印した水神様だが、どうやらここの所、封印の力が弱まっているという。」
グレ「…鬼が、復活するのか。」
凪助「分らぬがな…。だが、ここの所、呪いにかかり死ぬ者が多い。だから水神様に…」
グレ「そんなの言い伝えじゃねぇか!なんだよなんだよ。さっきから聞いてりゃ、水神様を癒すだとか、ヒノミナの儀礼だとか!馬鹿馬鹿しい!そんな事でクイナの奴は責任感じてるのか??巫女にまかせっきりで、自分らはどうすりゃいいか考えてやしねぇ!なんて無責任な村なんだよ!馬鹿ばっかじゃねぇか!」
水鶏「それでいいのじゃ!」
グレ「…クイナ。」
水鶏「ハァ…。何を喚いておるのだ、猿。せっかくの宴も台無しじゃ。カンタとサエモンが悲しむ。」
グレ「だってよ!お前!」
水鶏「いったであろう。それでいいのじゃ。わしが巫女の仕事をして、村の者がそれで安心するのであれば、わしはよいのだ。それに、水神様は確かにおる。何もただの言い伝えではないのじゃ。」
グレ「じゃあ、ホウソウの呪いは?あれだって、本当に封印してるのかもわからねぇじゃねぇか!」
水鶏「そうじゃな。それはわしにもわからぬ。じゃが、今はそれでいいのじゃ。」
グレ「は?」
水鶏「あね様が言っておった。儀礼は巫女と水神様がただ一度きり言葉を交わす事の出来る場。だとな。なればその時にホウソウの呪いの真意を水神様に問うてみればよい。」
凪助「なっ!?ならぬ!それではまた水神様の怒りをかってヒバリの二の舞に…」
水鶏「二の舞になどならぬ。」
凪助「…クイナ。」
水鶏「わしには村一番の兵(ツワモノ)がついておる。それとも何か?みすみす見殺しにでもするのかの?」
凪助「いや、そ、それは」
水鶏「それにな。」
グレンに向き直るクイナ
グレ「ん?」
水鶏「おぬしもおる」
グレ「え?」
水鶏「こーんな可愛い巫女様が命を賭けるのじゃ!男なら守ってやるのが務めじゃろう。のうグレン、おぬしも力を貸せ!」
グレ「はぁぁぁあ!?」
水鶏「どうせ、行く当てもなく暇じゃろうて。お?もしや、嫌なのか。あー、そうなのか、嫌なのか。こんな可愛くていたいけな巫女様を見殺しにして、なんともまぁ、男の風上にも置けぬ者よのぉ。」
グレ「だぁああ!やってやるよぉ!」
水鶏「ん?」
グレ「男グレン!巫女の一人、守れねぇわけがねぇ!それにな!俺様も水神様に一言、物申してやりてぇんだぃ!よくもまぁ、クイナの姉ちゃん殺しやがったな!ってなぁ!」
水鶏「…ぉ。ぷっ。はっはっはっは。」
グレ「あ?なんで笑う!こちとら大まじめだぞ!」
凪助「フッ」
水鶏「はははは。ほんにお前は、馬鹿じゃ!馬鹿猿じゃあ。」
――翌日――
凪助「準備は良いか!グレン。」
グレ「よっしゃい!ナギスケ!すぐさま泣きべそかかしてやるよぉ」
凪助「良い度胸だ。」
村長「それでは、はじめぇ!」
急接近する両者
グレ・凪助「(向かっていく声)」
剣戟の音
凪助「せぇい!」
グレ「っ!ぬぉお!」
水鶏「二人ともよく戦っておるのう」
村長「そうじゃのう。ところでじゃ、クイナ。あの若人(わこうど)は何者じゃ?」
水鶏「おぉ、きのう社の中で出会ったのじゃ!」
村長「社?ヒノミナ社か。」
水鶏「うぬ!おのれの名以外、覚えておらぬようだったゆえ、ナギスケと連れ帰ってきた。」
村長「しかし、なぜ社の中に…ん?」
グレ「さぁて!ここからが俺様真骨頂!」
凪助「おう!待っておったぞ!」
グレ「昨夜、寝ずの番で考えたぁ!その名も…」
凪助「むっ!」
グレ「グレンの強い炎と拳の鬼殺し!!」
水鶏「ださ…」
村長「酒が飲みたくなるわい…」
炎のまとった一撃がナギスケに襲い掛かるが
颯爽と避けるナギスケ
凪助「一度見た技。見切った!隙あり!!」
ナギの真剣がグレンの肩にあたるが、びくともしない
グレ「きかねぇ!」
凪助「硬すぎるっ!昨晩、手入れし直したこの愛刀でも傷一つ付けられぬと申すか…」
グレ「俺の体は岩でできてるからな!はっはっは!」
凪助「…岩?」
グレ「後、俺の技はまだ止まってねぇ!」
凪助「なに!?」
炎をまとった脚がナギスケを襲う
グレ「ちぇあああ!」
凪助「ぐぁあああ!」
飛ばされるナギスケ
グレ「へぇ、やるな!これも受け止めるか」
凪助「今のは危なかったぞ。危うく丸焼きだ。」
グレ「はっは!美味くなさそうだ!」
凪助「それはなんという技だ。」
グレ「グレンの強い炎と脚のナギ殺し!!」
水鶏「いや、だから…」
凪助「はっはっは!殺せておらぬぞ。」
グレ「なら、次は全力だ!」
凪助「ほう…」
グレンの体中を炎がまとう
村長「なんじゃこれは…さっきのといい…」
水鶏「ようわからんが火を使った術を使うようじゃ。」
村長「火を、それにヒノミナ社に…もしや」
水鶏「ん?」
村長「クイナ、この試合。いくら村一番とてナギスケの奴は死ぬかもじゃぞ」
水鶏「それは案じてはおらぬ。ナギスケは勝つ。だって、あやつは…」
ナギスケに向かっていくグレン
グレ「がら空きだぞ!ナギスケェ!」
凪助「すぅ…」
水鶏「最強なのじゃから。」
凪助「夕凪。一閃。」
グレ「えっ…」
グレンの背中に大きな一撃が入る
グレ「ぐばぁっ」
飛んでいくグレン
村長「…ぁ。」
水鶏「一本!勝負あり!」
グレ「ぁっ…。あがっ。何が…」
水鶏「まんまとナギスケの挑発を受けたな。あれは受け技じゃ。」
凪助「はっはっは。わしも決まるとは思わなんだが。こうも綺麗に決まるとはな。」
グレ「…え。だって、俺が飛び掛かって、殴りかかろうとして、当たったと思ったら、いつのまにか背中の方に…」
凪助「そういう技なのだ。我が家(や)伝来の夕凪流・奥義【一閃】だ。おのれの軸を外し、敵の向かってくる気の力を存分に受け流し、大きな一打を与える。グレンが全力を発揮すればする程、痛烈な一撃となるのだ。」
水鶏「まんまとやられたな」
グレ「ううむ。だが、刃では俺の体には響かねぇぞ。」
凪助「うむ。だから刀を返して打った。」
グレ「返した?」
凪助「斬る事が出来ぬなら、砕けばよい。」
水鶏「逆刃(さかば)か。」
グレ「さかば?」
凪助「邪道な使い方だがな。刀は裏を返せば、こん棒以上に強力な鉄の棒と化す。これならば、おぬしの岩のように硬い肌も砕けると思ってな。」
グレ「なっ。…くぁぁあ!参った。完敗だ!」
水鶏「おごりが過ぎるんじゃ。猿。」
グレ「あぁ、そうかもしれねぇな。」
凪助「だが、一閃は大きな隙も生じる大技だ。それを見切っていたのなら、やられていたのはわしかもしれぬ。いや、いい試合であった!礼を言う。」
グレ「おう!俺も楽しかったぞ!」
凪助「では、腹ごしらえでもするか、グレン。」
グレ「おう!」
村長「お待ちあれ!!」
ひざまずく村長
村長「火の神様!ヒノミナの島をお救い下さい!」
驚く一同
村長「クイナ。この者がヒノミナ社の中におったというのは間違いないか。」
水鶏「え、ぁ、うむ。」
村長「元来、あの社の中は巫女の力を持つ者しか入れぬよう水神様の封印が施されておる。そして、そこに祭られておるのは、亡き火の神と言われておる。先ほどの火の術を見ても明らかじゃ。この者は…このお方は!火の神様じゃ!」
凪助「なに!?」
グレ「ヘ?」
凪助「しかしオッ様。この者はどう見ても人。とても神のようには思えぬ。」
水鶏「そうじゃ!妙な術を持っておろうと、このようにちんけな体躯(たいく)の者が神とは到底おもえぬ。」
グレ「ちんけって…」
村長「わしも信じられませぬが、ここの所ホウソウの呪いで増えてきた死に絶える者に、近づいてきた祈りの儀礼の事も考えると、火の神様も復活したと考えても不思議では無かろう。」
水鶏「ううむ…」
村長「祈りの儀礼は、明日執り行う!」
グレ・凪助・水鶏「えぇぇ!?」
村長「事は急を要する。火の神様、なにとぞ巫女殿に付いて、祭壇までお供を。」
グレ「お、おう。」
水鶏「なっ、おぬし良いのか!」
グレ「あ?何あわててんだよ。どうせ俺を連れていく予定だったんだろう?」
水鶏「あれは、まぁなんというか。半分冗談のような。」
グレ「俺は付いて行く気満々だったぜ。」
水鶏「え?」
グレ「なんだか分かんねぇんだけどよ。そこの老いぼれが言ってるように、なんだか他人事(ひとごと)に思えねぇんだ。」
水鶏「おぬし…」
グレ「でも、いいのかよ。儀礼の日を巻いちまってよう。」
凪助「そ、そうだ。オッ様!儀礼の日は巫女の修行の日数に合わせて決めたもので…」
村長「そんな物はない。十分に力を身に着けた巫女であれば、儀礼はいつでも執り行えるのじゃ。クイナはもう立派な巫女じゃ。」
水鶏「でも、オッ様。わしはまだ心の準備が…」
村長「クイナ。おぬしなら大丈夫じゃ。わしの孫なのじゃからな。巫女としての力もある。それに、強い男を二人もはべらせておる。」
水鶏「ん…。」
村長「…水神様に聞いてくるのじゃ。ヒバリの事。」
水鶏「っ!わかった。」
凪助とグレンに向き直る水鶏
水鶏「ヒノミナ島の海ノ巫女・クイナ。明朝祈りの儀礼に参る。ナギスケ、グレン。供を頼むぞ!」
凪助「うむ」
グレ「おう!」
――夜――
グレ「なんだかとんとん拍子に話が進んじまったが…。これで、良かったんだよな…」
水鶏「不安か?」
グレ「不安…とは違うけど。ううむ。」
凪助「明日の儀礼。うまくいけば、村の者は救われる。それに巫女の務めも終えてクイナもただのムラオサの孫として暮らせるのだ。」
水鶏「…うむ。」
グレ「いや!それは無理だろ。」
水鶏「え?」
グレ「クイナを見てる皆の顔。希望に満ちた顔してやがる。儀礼が失敗しようが成功しようが、この村にとってクイナはもはや、あぁ、なんだろうな…その…。」
水鶏「神様…か。」
グレ「ん?おぉ!そうだ!神様だ!神様!」
凪助「神様か…。とても、一人の人間が抱えてよい重責(ジュウセキ)ではないの。」
間
グレ「儀礼が終わったら!旅に出るか!」
水鶏・凪助「え?」
グレ「旅でぃ!この島を出るんだよ。」
水鶏「…島を、出る。」
凪助「ふっ。」
グレ「なんつったっけな。あ、カラノ国!行ってみようじゃねぇか!」
水鶏「カラノ国か…」
凪助「一度、父上に連れられて行ったことがある。広大な土地だった。」
グレ「そうなのか!?どんなところでい!そこは!」
凪助「わしも幼かったからのう…。よくは覚えておらぬが、とにかく人の往来(おうらい)がすごかったかな。」
グレ「いいねいいね!楽しそうじゃねぇか!な!クイナも行こう!」
水鶏「う、うむ。」
グレ「大丈夫だ!絶対成功する!成功したら旅に出よう!」
凪助「はっはっは。こんな話、オッ様が聞いたらどう言うか。」
グレ「あぁ、そうか。じゃあ!家出だ!家を出よう!」
笑ってしまう凪助と水鶏
凪助「…クイナ。」
水鶏「ん?」
凪助「グレンの話、面白そうではないか。乗ってみてもよかろう。」
水鶏「…そうじゃな。そうじゃな!そうしよう!」
グレ「よっしゃ決まり!!」
水鶏「グレン。」
グレ「お?」
水鶏「…なんでもない」
グレ「おう!」
間
水鶏「かたじけない。(小声)」
(翌日)
――ヒノミナの洞窟――
凪助「よし、着いたぞ」
グレ「ほぉ…この奥に、水神様が。」
凪助「そうだ。祭壇までは遠くないが道ががたついておる。気をつけて進むぞ」
グレ「おうよ!」
水鶏「では、行こう。」
洞窟に入っていく一行
グレ「しかし、水神様っていうのはどんな奴なんだろうね。やっぱでかいんだろうなぁ。」
水鶏「はっきり言って、わしにもわからん。」
凪助「存外、グレンのような体躯(たいく)かもしれぬな。」
グレ「冗談やめてくれよ。俺は神様なんて大仰(おおぎょう)なもんじゃねぇぞ」
水鶏「じゃが、おぬしの持つ術は人間が持つようなものではないぞ。」
グレ「それを言ったらお前もナギスケもそうだろうよ。」
凪助「はっはっは。言い得て妙だな。」
水鶏「着いたぞ。」
グレ「はやっ」
水鶏「ここが祈りの儀礼をおこなう祭壇じゃ。」
グレ「奥に、湖?」
凪助「洞窟の奥は海に繋がっておるのだ。」
グレ「なるほど。そこから水神様が来るのか。」
湊「我を呼んだか。」
驚く一同
湊「巫女か。」
水鶏「は…ははっ。ヒノミナ島の当代の海ノ巫女・クイナであります。」
湖から姿を現す湊・竜の姿をしている
その姿に驚く一同
グレ「で、でけぇ。」
凪助「これが、水神様。」
湊「供を連れておるのか。」
水鶏「も、申し訳ございませぬ。水神様」
湊「よい。では、巫女よ。己の修行の賜物(たまもの)をここに示せ。」
水鶏「…はい。」
グレ「待て!」
凪助「あ、おい!」
グレ「その前に聞くことがある!だろ、クイナ。」
水鶏「…うん。」
湊「なんだ。申せ。」
水鶏「…あね様。先代の海ノ巫女・ヒバリは。なにゆえ水神様の怒りをかってしまわれたのでしょうか」
湊「…ヒバリ?」
グレ「答えろ!」
凪助「グレン!!」
湊「怒りなどかっておらぬ。彼(か)の者は立派に巫女の務めを果たした。」
水鶏「え…。」
凪助「な!?馬鹿な!では、なぜ死んでしまわれたのか!」
湊「それが巫女の務めだからだ。」
グレ「え!?」
凪助「どういう事だ。」
湊「ホウソウの封印に綻びが出来た。それをおさめる為には実りをつけた巫女の命を我に捧ぐ事。」
凪助「そんな…」
グレ「そんな馬鹿な話があるか!じゃあ、何か?クイナも命を捨てなきゃならねぇのか!」
湊「然(しか)り」
グレ「ふざけっ」
水鶏「やめよ、グレン。薄々感づいておった。」
グレ「え…」
水鶏「あね様に限って怒りをかうような事があるとはどうしても思えんかったのじゃ。きっとあね様もこうして儀礼を前に真実を告げられ、決めたのだと思う。」
グレ「クイナ。」
水鶏「うむ。」
水鶏「うむ。わかった。」
水鶏「水神様。」
湊「なんだ。」
水鶏「…祈りの儀礼を。」
グレ「クイナ!嘘だろ!なんでだ!!それをやっちまったら死ぬんだぞ!」
水鶏「よいのじゃ!」
グレ「よくない!お前が死んじまったら、皆が悲しむんだぞ!」
水鶏「…っ。」
グレ「なんて言えばいいんだよ!祈りは成功したが、巫女は死んじまったって言やぁいいのか!そんなの誰も望んじゃいねぇぞ!ホウソウの呪いは怖ぇ。でも、お前が死ぬくらいだったらホウソウの呪いで死んだ方がマシだって思う奴ばっかだぞ!」
水鶏「…じゃが。」
グレ「おい!ナギスケ!!なんでお前は黙ってんだよ!何が何でもクイナを守るのがお前の役目なんじゃねぇのか!」
凪助「こ、こればっかりは。」
グレ「馬鹿野郎!!どいつもこいつも馬鹿野郎だ!」
息を吸い、足を踏み出すクイナ
グレ「行くなよ…。こんなの馬鹿げてるよ!そうだ、もう抜けちゃおう。今から旅に出るのも…」
水鶏「それだけは絶対に出来ぬ!!」
グレ「…っ。」
水鶏「村の者を置いて、一人命惜しさに旅に出るなど、もってのほか。それこそ、馬鹿の所業じゃ!」
水鶏「のう、グレン。言うたであろう。村の者が、皆安心すれば、わしはかまわぬのじゃ。」
グレ「じゃ、じゃあ儀礼をやめよう!そうだよ!儀礼は失敗した!これからは普通の小娘!またよろしく!ってよ!なっ、そうしよう!」
水鶏「それも、嫌なのじゃ。村の者を見送るのはな。もうコリゴリなのじゃ…。」
クイナの道を遮るグレン
水鶏「どけ。グレン。どいとくれ。どいてはくれぬか。」
グレ「どかねぇ!」
水鶏「これはもう覚悟の上なのじゃ!巫女になると決めた日に覚悟していた事なのじゃ!これで皆が幸せになる!それでわしは良いのじゃ!どいとくれ…どいておくれグレン。でないと……わし。行きたくなくなるではないか。」
グレン遮っていた手を下す
水鶏「ありがとの。グレン。それにナギスケも。世話になったの。」
凪助「クッ…」
グレ「クイナァ!!」
湊「あいわかった!!」
驚く一同
湊「元より、この儀礼は我も乗り気ではない。」
水鶏「水神様?」
湊「ふっ。兄者。変わられましたな。」
凪助「兄!?」
グレ「え?」
湊「そのように他の者を想えるようになったとは…。」
グレ「なんの話をしてんだ。」
湊「記憶の欠落は我の失態。ホウソウの封印に綻びが出来た事への焦り。予定よりも早くに起こしてしまった」
グレ「だから、何の話をしてるって」
湊「火の神・紅蓮!」
グレ「っ!?」
凪助「火の神!?」
水鶏「…グレンが。」
湊「久方ぶりだ。意識を持てどもここに辿り着いてこなんだ時は、どうすればよいか。頭を抱えていた。」
グレ「俺が、火の神…。」
凪助「オッ様の言うとおりだったとは!」
湊「この儀礼。行わずして大鬼ホウソウの力を打ち消す方法が一つだけある。」
驚く一同
凪助「そ、それは一体、いかような…」
湊「我を、討て。」
グレ「へ…。」
凪助「水神様を…」
水鶏「討つ?」
湊「ホウソウは我の内に封じ込めてある。その我が討たれれば、ホウソウもまた消え失せる。もはや我に封印を保つだけの余力は残っておらぬ。ゆえに、我を討つために…」
水鶏「グレンを呼んだ…。」
湊「さよう。」
グレ「お前はそれでいいのか。」
湊「無論。ヒノミナの地が安寧を取り戻すのであれば、この身は滅んでも構わぬ。」
水鶏「…水神様。」
湊「だが、事は言うに容易(たやす)き事にあらず。我を打ち消すには兄者。貴殿の核がいる。」
グレ「俺の…核!?」
湊「人であれば、心の臓に位置する。それを我が核にぶつける。水と炎、異なることわりが混ざり合う時に生じる引力により、その存在を打ち消す。」
凪助「なっそれじゃ…。」
水鶏「(息をのむ)」
湊「紅蓮もまた、我と共に消える。」
間
グレ「へへっ。上出来だ。さすがは俺の弟だけある。」
水鶏「グレン…。」
グレ「まぁ、元々よそもんみてぇな奴だ。1日そこらの付き合いしかない奴が消えて皆が幸せになるんなら、いいってことじゃないか。」
凪助「お前…。」
湊に歩み寄るグレン
水鶏「…グレン!」
グレ「ん?あぁ、悪いな、クイナ!カラノ国を旅するって話なんだが、一緒に行けそうにねぇわ。」
首を横に振るクイナ
グレ「クイナ…。お前さんに会えて良かった。巫女の仕事。ありゃ、すげぇ綺麗だった。惚れちまったぁな~。」
水鶏「うん…。」
グレ「ナギスケ!試合もっとしたかったな。おめぇに負けたまんま行くのは心苦しい!めちゃくちゃ悔しいぞ!」
凪助「ふっ。ならば今からするか!」
グレ「やめとくよ。あの大技を見極められるって思ったら挑ませてもらうよ!」
凪助「確実にわしが負けるな。」
グレ「そうだ!俺が最強だ!」
グレンに走り寄って抱き着くクイナ
グレ「ぉっ」
水鶏「絶対戻ってこい!何年でも待っておる。何百年でも!だから、戻ってこい!」
グレ「…あはは。困ったな。」
湊「兄者…そろそろ。」
グレ「お前…。」
湊「もはや、意識がなくなりかけておる。早く…。」
グレ「分かった。クイナ…。」
水鶏「あぁ…。」
グレンを離すクイナ
湊「我の胸に見える蒼き欠片。そこが我の核だ。そこに、兄者の炎を打ち付けてくれ。」
グレ「100年もの間、一人ぼっちにしてすまなかったな。」
湊「何をいまさら。兄者はいつも我を置いていく。」
紅蓮「そうなのか。そう…だな。すまなかったな。ミナト。」
湊「…兄者。」
紅蓮「立ち昇れ、炎!その流れをカタナと成せ!」
凪助「なっ!あれは!!」
紅蓮「炎の刀・カガリ。なんつってな!ナギスケの真似でぃ。」
凪助「ふっ…。いけない神様だ。」
紅蓮「痛いぞミナト。」
湊「それは兄者も同じこと。」
湊の胸に炎の刀を突きたてる紅蓮
大きな衝撃波が発生する
水鶏「キャァ」
凪助「クイナァ!」
水鶏「大丈夫じゃ!」
湊「…っぐぅ」
紅蓮「うぉおおおお」
巨大な音と共に衝撃はがおさまる。
水鶏「…おさまった。」
凪助「水神様がおらぬ。グレンも…。」
水鶏「…っく。んぐ。グレン。グレン!!」
大泣きするクイナ。
洞窟内には鳴き声だけがこだまする。
水鶏「その昔、この島には土地神様が二柱(フタハシラ)いたそうな。一柱(ヒトハシラ)は火を司る神・紅蓮、またもう一柱は水を司る神・湊。二柱の土地神様はこの島の豊かな実りを守る為、力を合わせて戦ったそうな。いつまでも、いつまでも。」
――XXX――
鬼「がぁぁ…」
湊「はぁ、でてきたか。」
紅蓮「しつけぇなコイツ。」
鬼「ぜははは!活きの良いのが一杯いそうだなぁ。」
湊「君、いい加減ウザいよ?ねぇ、兄貴、わざわざ僕らがやんなくても、良くない?」
紅蓮「だな~。人間もいつの間にか、鬼から身を守る術を身につけちまったし。」
鬼「俺様この頃なぁ?力が増してウズウズなんだぜ!」
湊「うぇ…きも。なんかいつもよりやばくない?」
紅蓮「ううむ。 放置するわけにもいかないしなぁ…」
湊「でもさぁ、僕らを信じてくれる奴らは減っていく一方だよ?いまさら力を貸さなくてもよくない?」
紅蓮「いいじゃないか。なんもやってないと上から怒られるし、ちょっとだけ負担を減らしてやろうよ。」
湊「あ〜あ。本当に物好きだね。」
紅蓮「なんとでも言ってくれ。俺はな。」
紅蓮「お人好しなんだよ!!」
-----------------------------------------------------------
完
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